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大阪高等裁判所 昭和45年(行コ)1号 判決

大阪府堺市船堂町一八三番地

控訴人

北側栄太郎

同市南瓦町二丁二〇番地

被控訴人

堺税務署長

田中儀之祐

右指定代理人

北谷健一

池田孝

吉田秀夫

岡山亮次

右当事者間の所得税加算税課税処分取消請求控訴事件について当裁判所は、昭和四五年一二月八日終結した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

被控訴人が昭和四三年二月七日所第三七二号を以てなした異議申立棄却決定の取消を求める控訴人の新訴はこれを却下する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人の昭和四一年分所得税につき昭和四二年一〇月一四日付でなした所得税額を三六、七〇〇円とする旨の更正処分及び過少申告加算税額を一、八〇〇円とする旨の賦課処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに当審において訴を追加的に変更して右第二項につき予備的に「被控訴人が昭和四三年二月七日所第三七二号を以て控訴人の異議申立についてなした棄却決定を取消す。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に附加する外、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

控訴人は、主位的請求において取消を求める所得税額更正処分及び過少申告加算税賦課処分(以下併せて「原処分」という)を不服として、昭和四二年一一月一一日被控訴人に対し、原処分の根拠法条を明示することを要求し且つもしその明示があれば異議申立を取下げる用意があることを明らかにして、異議を申立てたのであるが、被控訴人は事前に右法条を明示しないまま昭和四三年二月七日右異議申立を棄却する旨の決定(以下「本件棄却決定」という)をなし、しかもその決定書においても原処分の根拠法条はおろか本件棄却決定自体の根拠法条すら明らかにせず、高圧的に異議申立を棄却する旨記載しているのみである。被控訴人の右の所為は、控訴人を原処分に盲従させようとするものであり、且つ本件訴訟の提起を余儀なくさせてこれを誘発したものであつて、国家公務員法第九六条第一項、憲法第一三条に違背し、憲法第一一条に規定する国民の基本的人権を蹂躙するものであるから、本件棄却決定は無効である。よつて控訴人は、予備的に、本件棄却決定の取消を求める。

なお、本件棄却決定に対する控訴人の審査請求に対し大阪国税局長のなした裁決書謄本を控訴人が受領したのは昭和四四年八月一日であるが、控訴人は同月二九日提起した本件の訴状及び同年一〇月三一日付原審準備書面において本件棄却決定の取消を求めているから、三箇月の出訴期間を徒過したことにはならない。

(被控訴人の主張)

行政事件訴訟法第一四条によれば「取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から三箇月以内に提起しなければならない」ところ、控訴人が本件棄却決定を不服として申立てた審査請求に対する大阪国税局長の裁決書の謄本が控訴人に送達されたのは昭和四四年七月三〇日であるのに、控訴人が請求の趣旨を追加的に変更して本件棄却決定の取消を求めたのは昭和四五年六月三〇日であつて、前記三箇月の出訴期間経過後であることは明らかである。のみならず、本件棄却決定に対しては既に大阪国税局長が右裁決において当否の判断をなしているのであるから、控訴人としては原処分の取消訴訟を提起すれば足りるのであつて、その外に本件棄却決定の取消を求める法律上の利益は存在しない。従つて、いずれにせよ本件棄却決定の取消を求める控訴人の訴は不適法として却下さるべきである。

理由

当裁判所は、控訴人の主たる請求を失当とするものであるが、その理由は原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

そこで、控訴人が当審において予備的に追加した本件棄却決定の取消を求める訴の適否について考えるに、成立に争いのない甲第二ないし第五号証によると、控訴人は原処分を不服として昭和四二年一一月一一日被控訴人に異議の申立をなし、昭和四三年二月七日被控訴人から右異議申立を棄却する旨の決定(本件棄却決定)を受けたところ、更にこれを不服として同年三月二日大阪国税局長に対して審査請求をなし、同国税局長は昭和四四年七月一一日右審査請求を棄却する旨の裁決をなしたことが明らかであり、控訴人が同年八月一日右裁決書謄本を受領したことは控訴人の自認するところであるから、控訴人は同日右裁決のあつたことを知つたものとしなければならない。そうすると、本件棄却処分の取消を求める訴は、行政事件訴訟法第一四条第一項及び第四項により、右裁決書謄本の送達によつて裁決のあつたことを知つた日から三箇月以内に提起しなければならないところ、控訴人は右出訴期間経過後であることの明らかな昭和四五年一月八日当庁に提出した控訴状及び同年七月一日当庁に提出した訴変更の申立書(いずれも同年七月一四日午前一〇時の当審第二回口頭弁論期日に陳述)によつて、はじめて右訴を予備的に追加したものであることが記録上明白であるから、右訴は不適法として却下を免れないものというべきである。

控訴人は昭和四四年八月二九日付本件訴状及び同年一〇月三一日付準備書面において既に本件棄却決定の取消を求めていると主張し、右各書面が前記出訴期間内に原審に提出されたこと及び右各書面に本件棄却決定を不当とする旨の記載があることは明らかであるけれども、右訴状の「請求の趣旨」においては原処分の取消のみを申立てており、その後前記控訴状提出迄の間に右申立が変更された形跡はないから、右訴状及び準備書面に本件棄却決定の不当をいう部分は単なる事情の陳述に過ぎないものと認める外はなく、これを以て本件棄却決定取消の訴が提起されたものとみることはできない。

よつて、控訴人の主たる請求を排斥した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴人が当審において予備的に追加した本件棄却決定の取消を求める訴は不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 金田宇佐夫 判事 西山要 判事 中川臣朗)

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